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高森明勅
2022.5.9 09:00皇統問題

「旧宮家プラン」を巡るいくつかの基礎的な事実

側室制度を前提とした非嫡出・非嫡系による皇位継承という
選択肢が失われた状態でも、明治の皇室典範以来の「男系男子」限定を
“思考停止”的に維持しようとする人々(いわゆる男系派)は、
旧宮家系国民男性の皇籍取得を可能にする方策
(いわゆる旧宮家プラン)を唱えて来た。

しかし、傍系の宮家も非嫡出・非嫡系による継承に支えられて来た
(それでも多くの宮家が廃絶した)以上、
そもそも皇位の安定継承につながらない。

しかも、旧宮家系国民男性“だけ”特権的に(婚姻を介在させないで)
皇籍取得が可能となる制度は、憲法が禁じる「門地による差別」
(第14条第1項)に当たるので、現実的にも採用できない。

もし、政府・国会が“無理な”憲法解釈により敢えて制度化を強行すれば、
国民平等の原則が大きく損なわれ、皇室は国民の間に「門地による差別」
を持ち込む存在と見られかねない。
よって、このプランは普通に考えて採用しがたいはずだ(一発アウト!)。
それを前提に、念の為に旧宮家プランを巡るいくつかの
基礎的な事実を“おさらい”しておく。

 

旧宮家プランの対象者は10名?

まず、旧宮家プランの対象者は具体的に何人いるか。
これは、私自身が裏取りをした事実ではない。
いわゆる男系派から提出されているところでは、
以下の通り(令和元年12月5日現在の数字という)。

〇賀陽家=2人。
〇久邇家=1人。
〇東久邇家=6人。
〇竹田家=1人。
合計10人。

ちなみに、これらの家々は遡ればすべて非嫡系だ。
傍系宮家の存続の為にも、“非嫡出・非嫡系”の
貢献がいかに大きかったかが分かるだろう。

 

当事者自身による「否定」

旧宮家プランはたとえ対象者が10人(あるいはそれ以上)いても、
当事者の同意がなければ強制的に実現できないし、勿論すべきでもない。

そうであれば、各旧宮家関係者の本人又は子息の皇籍取得への意思はどうか、
が問題になる。
これまで知られている限りでは、次の通り(匿名の伝聞情報は除外)。

〇賀陽家→「立場が違いすぎ、恐れ多いことです」(賀陽正憲氏)
〇久邇家→「『何をいまさら』というのが正直なところ本心だ。
…拒否反応がある」(久邇邦昭氏)
〇東久邇家→「私は外野の人間。…現実的に難しいかなと。
そんな話になってもお断りさせていただく」(東久邇征彦氏)
〇竹田家→「私自身は仮に打診があっても受けるつもりはございません」
(竹田恒泰氏)

今のところ、プランを受け入れる意思を示した人物は知られていない。

 

旧宮家系子孫の血縁の遠さ

さらに、旧宮家プランの対象者は天皇との血縁が極めて遠い
(20世以上!)。

被占領下のGHQの政策とは関係なく、もともと血縁が遠い
傍系宮家の皇族は皇籍離脱(臣籍降下)する国内のルールがあった
(「皇族ノ降下ニ関スル施行準則」大正9年施行)。
現在、旧宮家プランの対象者と考えられている人々に、
そのルールをそのまま適用した場合はどうなるか。

「たとえ戦後直後における皇籍離脱がなくても、
内規(=皇族ノ降下ニ関スル施行準則)上は臣籍降下せざるを
得なかった家々の末裔たちばかりである」(小田部雄次氏『皇族』)

「この準則が戦後も存続していた場合…(対象者、又はその親の世代)
から全員降下しなければならないことになっていたのである」
(所功氏『皇室典範と女性宮家』)

「敗戦後の昭和22年、残っていた伏見宮系の皇族もすべて皇籍を
離脱したが、準則の規定に従えば、このことがなくても、
彼らの系統は、近い将来、すべて臣籍に降ることになっていた」
(梶田明宏氏『歴史読本』平成18年11月号所収)

旧宮家プランの対象者は皆さん、GHQの強圧がなくても
国内のルール上、もともと皇族の身分を離れる建前だった。
その建前が、そのまま機械的に適用されたかはともかく
(同準則が効力を持っていた時代に実際に行われた12例の
臣籍降下は「間接的に適用されていた」と評価されている。
阿部寛氏『明治聖徳記念学会紀要』復刊50号所収)、
それほど血縁が遠いというのが実態だ。

 

内廷プラス4ないし5宮家で安定継承という幻想

皇室に内廷(いわゆる天皇家)プラス4ないし5の宮家
(つまり5ないし6の系統)を世代を越えて
「常に確保し続けることによって、側室なくとも男系継承は
確率論的に可能である」という意見がある
(竹田恒泰氏『伝統と革新』創刊号所収)。

しかし、これは過去の天皇の正妻が男子を生まなかったのは
26.5%にとどまる、との前提で組み立てられた推論だった。
ところが、伝説的なケースを除外して史実に近い数字を探ると、
35.4%になる。
よって、前提条件はもっと厳しい。

又、「確率論」を無下に排除するつもりはないが、
その限界も考慮に入れておく必要がある。
現に、秋篠宮殿下から悠仁親王殿下までの間に9人続いて女子
(内親王・女王)ばかりがお生まれになった事実も、確率論的には
極めて稀な出来事であった。
しかし、現実にそのようなことが起こり得るのだ。

さらに、「側室なくとも」果たして内廷プラス4ないし5の宮家を
「“常に”確保し続ける」ことはそもそも可能なのか、
という根本的な疑問がある(戦後、内廷プラス3宮家でスタートした皇室は、
今の制度のままだと、やがて宮家がゼロになってしまう)。

と言う以前に、最初の時点で4ないし5の宮家を確保できると
考えること自体、かなり空想的ではあるまいか。
逆に、「男系男子」限定という“縛り”を解除すれば、
それほど多くの宮家を確保しなくても、継承可能性が
格段に高まることは改めて言うまでもない。

いずれにせよ、旧宮家プランは“憲法違反”の疑いを
綺麗サッパリ拭い去らない限り、現実的な選択肢には
なり得ないことをもう一度、確認しておく。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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